• 参議院選挙 2016

    “ R E A L ”

    − 奨学金編 − vol.1 R.O.

     

    ―奨学金を借りることになった背景は。

     

     3人兄弟の長男です。ぼくの兄弟は、全員が大学進学を希望していました。両親は共働きですが、3人分の学費となるとさすがに両親の稼ぎだけでは足りなくて。兄弟全員が奨学金を借りることは、大学に入る前から決まっていました。

     

    ―大学入学後に奨学金を借りたとき、どんなお気持ちでしたか。

     

     当時は奨学金を借りるにあたっての覚悟というか、自分がこれから借金を背負うっていう感覚は全くありませんでした。経済的に苦しいならしょうがない、と思っていました。それに、大学入学直後は、自分が社会人になってからどう生きていくのか、将来どんな仕事につくのかということをしっかり描き切れていませんでした。だから余計、自分が奨学金を返済していくイメージは持ちにくかったです。

     

    ―ためらいや不安はなかった。

     

     正直な話、借り始めた時はあまりためらいなどなかったです。それは「奨学金」って名前が付いていたからかもしれないし、自分が不勉強だったせいもあるけど…。周りの友達も借りていたし、本当にごく自然に借りました。

     

    ―いつ、「奨学金」を意識しましたか。

     

     大学生活の中で一番意識したのは、就職活動を始めてからです。もちろんそれまでも、自分の今後の生き方や働き方を考える機会はありましたが、就職活動を通して、より一層考えるようになりました。16年かけて30代半ばまで、毎月約1万7千円の負債を返していくということが、自分の人生設計に重みのある事実としてのしかかりました。

     

    ―奨学金は就職活動には影響しましたか。

     

     借金が数百万あると考えると、やはり将来の選択肢が狭くなりました。人生は一度きりだし、本来20代から30代というのは、色々なことにチャレンジできる年代。就活をせずに起業するとか、自分の夢を追うために定職につかないという選択肢もありえたし、実際その希望も捨てていなかった。でも、奨学金の返済を滞納するとブラックリストに記載されて、金融機関からお金を借りることができなくなったり、ローンが組めなくなったりする。安定して収入が得られる生き方をしないと、自分の将来が崩れてしまうという絶望と焦燥感がありました。将来の選択肢自体も狭まりましたし、失敗したら後がないと思うと、気持ちの面でも追い込まれました。

     これは、過去に手続きで使った、返還誓約書や借用証書です。返還誓約書は4回生で書きました。借用した金額に約60万円の利子がついて、合計300万円くらい。1ケタ少なかったら少し働けば返せるかもしれないけど、22歳で300万の借金を背負ってると考えると…。

     

    ―わたし(聞き手・大学3回生)も同じ書類をかきました。

     

     連帯保証人になってもらったおじは、事情があって今は当時と違う仕事をしており、以前ほどの稼ぎがないんです。生活保護をもらっている時期もありました。だから、もし自分が奨学金を返せなくなると、まず両親に督促状が送られると思います。でも、両親ともにあと10年ほどで退職。もしもの時に誰も返すことが出来ないんじゃないかという不安もあります。

     

    ―社会人1年目だと思いますが、奨学金は生活に影響しますか。

     

     仕事は、まだ知らないことやストレスも多くて大変です。人間関係にもすごく気をつかう。メンタルの面で病気になったり、働きすぎて身体を壊した時のことを考えると、奨学金を300万返さなあかんっていうのはとても恐ろしいことに思えます。やり直しがきかないから、無理してでも仕事を続けなければならない。

     

    ―金銭的にはどうですか。

     

     手取りとしてもらえる額から生活費、さらに奨学金の返済額を引くと、余暇に使えるお金は、そのへんの学生とあまり変わらない。貯金はできたとしても毎月1万円くらいなので、なかなかお金も貯まりません。食費や光熱費なら節約を心がければ抑えられるかもしれないけど、奨学金の返済のために毎月固定で2万円近く引かれていくというのは、額面よりも大きな負担になってくるだろうと思います。

     

    ―友人と奨学金の話はしますか。

     

     社会人になってから特に、奨学金の話題は増えました。「オレこんだけ借金あんねん!」みたいに、笑いあう感じです。でも、「毎月どれくらい返すん?」って聞くと、1万円とか8千円くらいの友達もいて。お金のこととなると、やっぱりうらやましくなったりもする。飲み会などで笑いながら奨学金の話をすることが、なんだか寂しいです。みんな本当はどう思っているんだろう。この300万がなければ、もう少し余裕を持って暮らしていけるんじゃないかという気がします。

     

    ―大学生活を通して、何か思うことはありましたか。

     

     私学に通っていたので、学費が本当に高かった。学費が高いと、せっかく行きたかった大学に入っても、バイトに追われて大学生活が満喫できなかったり、卒業した後の生活が限られてきたりする。大学って大勢の人との出会いがあって、自分のやりたい事やこれからの人生を考えることができる、多様な生き方が見つかる場所だと思うんです。でもそこに行くために借りた奨学金のせいで、本来考えられたはずの多様な生き方や将来の選択肢がどんどん狭まってしまう。選択肢を広げるために大学に行ったけど、経済的な理由で結果的に選択肢が狭まった。すごい皮肉だし、これでは本末転倒です。

     

    ―政治には何を望みますか。

     

     奨学金の返済については、すでに社会問題になっていると思うんです。ただ、奨学金のニュースに対する世間の反応を見ると、「自己責任」というような意見が多く目につく。でも、奨学金を借りる理由って家庭の経済的な事情がほとんどだと思うし、どんな経済状況の家に生まれるかなんて誰にも選ぶことはできない。

     奨学金の問題に関して政治に望むのは、奨学金を背負わねばならないことを、個人のせいにしないということ。そして、子供の貧困の問題など、奨学金を借りざるを得ない社会の構造自体を解消する取り組みを望んでいます。奨学金を借りながら、大学で真剣に学んでる学生は、数えきれないくらいいる。そして、過去に奨学金を借りて返済中の人に対しても、もうちょっと緩やかに返すことができたり、免除などを打ち出す政策を待っています。

     

    ―もうすぐ選挙があります。

     

     個々人が経済的な理由や自分の属性などによって、望んでいる生き方を奪われない社会を望みます。それぞれが多様な生き方を考えられる、多様な選択肢の中で自分の道を選んでいける社会になってほしい。奨学金に限らず、人々が抱え込んだ、自分の力では跳ね返せないような「負債」を減らしてほしいです。

     

    ―今日はありがとうございました。